加美町で始まった署名活動は県内全域へ広まった(昨年12月、やくらい文化センター)

広がる署名活動の輪
家族らの願い「勝男の無事」

失われた39年間・早坂勝男さん拉致疑惑 第5回

2007年2月24日付

 昨年12月13日。早坂勝男さんの義兄、小山巌さん(67)=宮城県加美町字原=が加美町役場に相談を持ちかけた。「39年前にいなくなった義理の弟が北朝鮮に拉致(らち)されていた可能性がある。署名に協力してほしい」。

 応対した今野正晴総務課長は「身近に被害者がいたとは知らなかった。同じ町民として一日も早く無事を確認したい」と快諾。職員を対象にした署名活動のほか、役場内に記帳所を設置。行政区長を通じて全戸に署名を呼びかけた。

 色麻町、宮城県、仙台市、美里町、涌谷町、大崎市、栗原市…。勝男さんを救おうと、県内の自治体が次々に立ち上がった。今年2月までの約3カ月間で、署名活動は県内ほとんどすべての市町村に広まっている。

 勝男さんの親戚らもスーパーの入り口や商店街などで「署名よろしくお願いします」と訴える。特定失踪(しっそう)者問題調査会の荒木和博代表によると「一人の特定失踪者のためにこれだけの活動が行われるのは全国でも例がない」という。

 拉致された可能性がある「特定失踪者」は全国に約460人いるが、県内出身者は勝男さんだけ。「今までは拉致問題を『対岸の火事』のように受け止めていた住民が、早坂さんの存在を知って真剣に考えるようになったのではないか」と関係者は分析する。

 署名の輪が広がる一方、小山さんは連日、マスコミから取材を受けるようになった。畳をつくって田んぼを耕す静かな暮らしから一転。手帳には「13日8時半 大崎市役所」などとスケジュールがびっしりと書き込まれている。

 「最初はカメラを向けられると頭が真っ白になった」と小山さんは苦笑する。「ただ、勝男の無事を確認するには多くの人の支援が必要。負担になっているのは事実だが、勝男のほうがもっと大変だ」。

 勝男さんの姉で小山さんの妻、よし子さん(64)は、遠くにいる1つ年下の弟を思いやる。

 「厳しく監視されて外出もままならないんじゃないか…。拉致された日本人と結婚しているんじゃないか…。食べ物には不自由していないだろうか…。まさか、無理して脱北しようとして殺されているんじゃないか…」

 家族らの願いはただひとつ。「勝男の無事を知りたい」−。(第一報道部 板垣 英人)